【城主はこう考えるシリーズ】ロシア民間軍事会社ワグネルによる「プーチン」への「反乱」?
皆さん、こんにちは。
蒸し暑い日が続きますね。まだまだ梅雨明けはしていませんので、降ったりやんだり、暑くなったりという不安定な日が続くかもしれません。くれぐれもご自愛ください。
さて、今回はまた趣向を変えて、「こう考えるシリーズ」としてみました。世の中で起こっていること等を、仮説、勝手な想像を含めて簡単に解説、問題提起してみる試みです。新聞やメディアによる報道に接して、まずどんな風にその情報を受け止め、想像を膨らませて考えていくかを紹介してみたいと思います。
この際、正しいかどうかは「強く」意識しないことにしますし、いわゆるなかなか手に入れることの難しい「インテリジェンス」情報なども意識せず、新聞やインターネットにあがってくる玉石混交の情報をどう料理するかで考えてみたいと思っています。
初回はまさにロシアでの昨日、今日の出来事として、ロシアの民間軍事会社ワグネルという組織がロシアで「反乱」を起こしたという報道がありました。ロシアによるウクライナ侵攻において戦力不足を補う役割も果たしてきたワグネルという会社。この動きに関して、少々長くなりますが、お付き合いください。
このワグネルの創設者エフゲニー・プリゴージン氏がロシア国内での「武装蜂起」を宣言したと報道されていました。
場所はロシア南部、ウクライナ国境にも近いロストフ州の州都ロストフナドヌーに入ったとプリコジン氏が表明。さらにそのロストフから北上し、リペツク州に到達、さらにはモスクワを目指すとも報道されていました。
その後、今日になってロシア大統領府から「プリゴージン氏とワグネル部隊のモスクワへの進軍中止を合意した」と発表がありました。さらにプリゴージン氏はロシアの隣国ベラルーシに出国できるよう、プーチン大統領がベラルーシ・ルカシェンコ大統領とも話をし、身の安全を保証した、とも報道されています。
これら一連の報道の中で、「国家分裂に(プーチンが)危機感」、「ロシアによるウクライナ侵攻に影響も」などのキーワードが出てきています。
さて、これらの情報からどんな風にこの事態の「意味」が捉えられるのでしょうか。
先に仮説の結論をお伝えすると、
- 今回の件はグローバルの文脈でみると、欧米(米英等)の負け、プーチン大統領の勝ち。
- 国内ではプリゴージン氏がプーチン大統領の取り巻きの保守派との権力闘争に負け、国外に逃れることになった。
- 今後、欧米はさらに今回の「反乱」を使い続けプーチン大統領への揺さぶり攻勢をかけ続ける。
- ロシア国内のプーチン大統領、「取り巻き」の保守派、そして欧米(特に米国)の関係機関等によって、このウクライナ侵攻収束を巡っての「落しどころ」を探る動きが活発化していく。
といったことが仮説としてあげられるかもしれないと考えてみました。正しいかどうかは今後の進展等が明らかにしてくれるでしょう。
まずこのプリゴージン氏がどんな人物なのかについて、報道では「プーチンの料理人」の異名を持つとありました。もともと、プリゴージン氏自身が窃盗や詐欺で服役した過去の経歴があるものの、その後1990年代にサンクトペテルブルグで高級レストレンの事業を開始、プーチン氏がそのレストレンに訪れるようになったとあります。ワグネルとなっていく組織を作ったのが2014年、当時、ロシアによるウクライナ東部紛争、クリミア侵攻・制圧などに参加するなど、政権と持ちつ持たれつの関係が続きます。
これらの民間軍事会社でのプリゴージン氏の活動はプーチン大統領との直接の関係での話であり、当然、ロシアの正規軍、軍幹部にとっては統制が効かない、反発に発展しかねないことになります。ショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長などの名前も報道であがっていますが、これらを巡る対立が激化して、今回の事態に陥ったのだろうと予想できます。ただでさえ、ロシアによるウクライナ侵攻が予想以上の長期化を強いられていて、ロシア国防軍のメンツが立っていない状況です。
プリゴージン氏もロシア軍幹部を、2022年2月のウクライナ侵攻に関して、ウクライナ側が攻撃をしかけてくるとの偽情報で侵攻開始を正当化して自らの利益としてきたと批判しています。この情報の真偽は検証が難しいですが、プーチン大統領というとても合理的かつ計算づくの人物がなぜウクライナ侵攻を開始したのかの一つの理由、背景を示唆するとも考えられそうですね。
もう一歩視点をロシア国内から外に向けてみましょう。
この侵攻で誰が利益を得ているのか?
中国、でしょうか?インド、でしょうか?それとも米国、でしょうか?。。。と。
詳しくは説明しませんが、案外論理的に考えていくと明らかな部分があるように感じます。残念ながら、「もうそろそろ(利益を得すぎもまずいので)いいのではないか?」という考え自体が出てきても物事の見方が多面的になるかもしれません。これは一つの仮説です。
プリゴージン氏には「ウクライナの情報機関が接触していたとの情報もある」との報道もあります。ここから先は直近の報道では出ていませんが、歴史を振り返ると、ウクライナの背後には米国を中心とした欧米が存在し強く影響しています。
西側、反ロシアの立場からすると、プリゴージン氏が反乱の動きで頑張ってくれることに利益がありました。ただ、もう少し頑張って北上しモスクワに近づいてくれると踏んでいたとすれば、思いのほか早く中止の合意に至ったという印象かもしれません。
さらには、かつてプーチン大統領に叛旗を翻したオリガルヒ(財閥)は多くが英国(ロンドン)に出国していましたが、プリゴージン氏は結局ロシアの影響圏にあるベラルーシに出国する流れになっています。西側からすると自分たちの影響圏には置いていないことになります。余談になりますが、今後はプリゴージン氏の生存確認(不審死等がないかなど)が注目点の一つかもしれません。
プーチン大統領は今回のワグネルの反乱について「裏切りは処罰する」と緊急のテレビ演説で述べていましたが、この点は報道されている情報だけを見る限り、プリゴージン氏とベラルーシのルカシェンコ大統領との旧知の関係性と、ロシアによるベラルーシへの核兵器配置との駆け引きでプーチン大統領がルカシェンコ大統領に借りを一部返した形になったのかもしれません。
あるいは、プーチン大統領自身は表向きの処罰の話とは異なり、プリゴージン氏とはそれなりの関係を維持しているため、急進派、保守派からの「突き上げ」に対して、プリゴージン氏をロシア国内ではなくベラルーシに出国させることができたということで、プーチン大統領の力がまだ保守派よりも上回っていることを示す一つの証拠になるのかもしれません。ただ、いずれにしても、ロシア国内での「反乱」を望む存在はロシア国内外にそれなりにありそうですね。
最近になり、米国等欧米の外交雑誌でロシアによるウクライナ侵攻の和平を目指すような論稿、米国で有名なシンクタンク(ランド研究所等)も和平を選択肢とするような論文などを発表するようになってきている印象があります。これは米国の政権がそのような情報を意図して流してきていると見ることもできるかもしれません。
ロシア大統領選挙は予定通りであれば来年2024年3月、そして米国大統領選挙は同じく来年2024年11月に行われます。これらの政治日程などをにらみながら、来年初までの関係者、関係各国の動きにますます注意が必要となってきそうです。
さて、最後に、今回のようにロシアについて「多面的、多角的な物の見方」「中長期の歴史的視点も踏まえながら考えてみる姿勢」に役立ちそうな本を以下にご紹介します。関心がおありでしたらどうぞ手に取ってみてください。
【歴史的な視点や力学から欧米とソ連・ロシアとの関係を眺める】
【米露という大国における諜報活動に関する記録】
【ロシア・プーチン大統領理解のための一つの教科書的本】
【ワグネルに関する数少ない本。ウクライナ、シリアでの実戦に身を置いた元指揮官による手記】
【米国バイデン大統領の自伝。プーチン大統領との面会の様子が興味深い】
【佐藤優氏による地政学についての考え方を授業で丁寧に教えてもらう内容】
【ウクライナ出身のユダヤ人歴史学者によるロシアの20世紀の歴史を一年ごと丁寧に説明。ロシア民族の歴史的な文脈などの理解もすすむ】
【山川出版社から読みやすい文章のタッチであらためてロシア史を学べる書。上下2巻。近代ロシア史、ソビエト連邦氏が専門の和田春樹氏による編。】